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アトツギとは?|家業を「継ぐ」から「次の形にする」へ、後継ぎが新しい事業を始める時代

アトツギとは?家業を「次の形」にする後継ぎたち

実家の工場を継ぐか、都会での仕事を続けるか。家業のある家に生まれた人の多くが、一度は向き合う問いです。ただ最近は、その問いの立て方が少し変わってきました。「そのまま継ぐ」か「継がない」かではなく、「継いで、次の形にする」という選び方です。こうした後継ぎは「アトツギ」と呼ばれ、地域の新しい担い手として注目を集めています。

POINT
  1. アトツギとは、家業を受け継ぎながら、新しい事業や売り方で会社を次の形にしていく後継ぎのことです

  2. 後継ぎがいない会社は今も約半数。そのなかで、家業の資産を生かして新しいことを始めるアトツギを、国も後押ししています

  3. アトツギの強みは、ゼロから起業する人にはない「お客さま・技術・信用・地域とのつながり」。この4つを棚卸しすることが、最初の一歩です

目次
  1. アトツギとは?家業を受け継ぎ、次の形をつくる人
  2. なぜ今、アトツギが注目されているのか
  3. アトツギの強み|ゼロから起業する人にはない「4つの資産」
  4. たとえば、こんな挑戦|4つの資産が新しい事業になるまで
  5. 実際のアトツギの例|家業の資産から、新しい事業へ
  6. アトツギが新しい事業を始めるときの進め方
  7. 家業の「らしさ」は、外に伝えることで強くなる
  8. よくある質問
  9. まとめ

アトツギとは?家業を受け継ぎ、次の形をつくる人

アトツギは「跡継ぎ」をカタカナにした言葉で、中小企業や家業の後継者、後継者候補のことを指します。言葉そのものは昔からありますが、カタカナで書かれるときは、少し違うニュアンスがこめられています。

それは、「先代のやり方をそのまま守る人」ではなく、「家業の資産を生かして、新しい事業や売り方に挑戦する人」という意味合いです。たとえば、町工場の技術を使って一般のお客さま向けの商品をつくる、旅館の空き部屋を地域の人が集まる場所に変える、といった取り組みです。家業を土台にした新しい挑戦は「ベンチャー型事業承継」と呼ばれることもあります。

大切なのは、アトツギが「起業家か、後継ぎか」のどちらか一方ではないことです。守るものと変えるものの両方を抱えながら、会社を次の世代につないでいく。その両立のむずかしさと面白さが、アトツギという言葉には詰まっています。

なぜ今、アトツギが注目されているのか

後継ぎがいない会社は、いまも約半数

民間の調査会社である帝国データバンクの「後継者不在率動向調査(2025年)」によると、全国約27万社のうち、後継者が「いない」または「未定」の会社は50.1%でした。7年連続で改善しているものの、今も約半数の会社で次の担い手が決まっていません。

地域による差も大きく、同じ調査では、もっとも低い三重県が33.9%、もっとも高い秋田県が73.7%でした。地方ほど、家業を誰に、どうつなぐかが切実な問題になっていることがわかります。

「家族が継ぐ」だけではなくなった

同じ調査では、2025年に社長が交代した会社のうち、社内の役員などが継ぐ「内部昇格」が36.1%、親族が継ぐ「同族承継」が32.3%、M&Aなどが20.6%でした。かつては「家族が継ぐのが当たり前」でしたが、今は継ぎ方の選択肢が広がっています。

裏を返せば、家族が継ぐことは「当たり前」ではなく、「自分で選んだこと」になりつつあります。だからこそ、継ぐと決めた人は、ただ守るだけではない意味を、自分の中に持ちたくなるのかもしれません。

国も、アトツギの挑戦を後押ししている

中小企業庁は、中小企業の後継者・後継者候補が、家業の経営資源を生かした新規事業のアイデアを競うピッチイベント「アトツギ甲子園」を開いています。2025年度で6回目となり、全国6つのブロックで地方予選を行って、決勝大会に進む仕組みです(経済産業省の発表、関東経済産業局の発表)。

また、事業承継の公的な相談窓口として、国が設置する「事業承継・引継ぎ支援センター」が全国47都道府県に48か所あります(中小機構 J-Net21)。家族の中だけで抱えこまず、外の相談先を使える環境が整ってきています。

これまでの跡取りと、いまのアトツギの比較

アトツギの強み|ゼロから起業する人にはない「4つの資産」

新しい事業を始めるとき、ゼロから起業する人がいちばん苦労するのは、お客さまも、信用も、作る場所もない状態から始めることです。アトツギは、その多くをすでに持っています。

  • お客さま:長く付き合いのある取引先や常連さん。新しい商品を最初に試してもらえる相手です

  • 技術・設備:何十年も磨いてきた技術や、工場・店舗などの設備。本業の外でも生かせることがよくあります

  • 信用:金融機関や仕入れ先からの信用、地域での「あの会社なら」という評判

  • 地域とのつながり:商店街、組合、自治体、学校。地域の中で何かを始めるときに頼れる関係です

一方で、こうした資産は、社内にいる人ほど「当たり前」に見えてしまいます。外から戻ってきたアトツギは、その当たり前を新鮮な目で見られる立場にいます。継いでから時間がたつほど見えにくくなるので、早いうちに書き出しておくのがおすすめです。

アトツギが持っている4つの資産(お客さま・技術・信用・地域とのつながり)

たとえば、こんな挑戦|4つの資産が新しい事業になるまで

まずは、よくあるケースをもとにした3つの例で、4つの資産がどう新しい事業につながるかを見ていきます。業種や地域を変えれば、多くの家業に重なる流れです。

ケース1:酒蔵の3代目|酒かすを、まちの名物に

東北の小さな酒蔵を継いだ3代目は、毎年大量に出る酒かすの使い道に悩んでいました。そこで、地元のパン屋や菓子店に声をかけ、酒かすを使ったパンや焼き菓子を共同で開発。酒蔵の見学と組み合わせた小さなイベントを始めたところ、日本酒を飲まない若い世代にも蔵の名前が知られるようになりました。使った資産は「技術」と「地域とのつながり」です。

ケース2:町工場の2代目|部品の技術を、一般向けの道具に

金属部品を下請けで作ってきた町工場の2代目は、取引先が1社に偏っていることに不安を感じていました。社員と話すなかで、細かい曲げ加工の技術を生かせるのではと考え、キャンプ用の小さな道具を試作。最初は既存の取引先の社員に使ってもらい、感想を聞いてから小さくネットで販売を始めました。使った資産は「技術・設備」と「お客さま」です。

ケース3:温泉旅館の4代目|平日の空き部屋を、仕事の場所に

平日の稼働が低いことに悩んでいた温泉旅館の4代目は、空き部屋を地域の人や出張者が使える仕事場として貸し出し始めました。地元の商工会と組んで勉強会を開くうちに、旅館が地域の人の集まる場所になり、宿泊の問い合わせも少しずつ増えています。使った資産は「設備」と「信用」です。

3つに共通しているのは、本業を止めずに、小さく試していることです。いきなり大きな投資をするのではなく、すでにある資産で「試せる形」をつくり、反応を見てから広げています。

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実際のアトツギの例|家業の資産から、新しい事業へ

ここからは、公開されている取材記事やインタビューをもとに、実際に家業を継いで新しい事業を育てたアトツギの例を3つ紹介します。

由紀精密(神奈川県茅ヶ崎市)|ネジの町工場から、航空宇宙の部品へ

1950年に祖父がネジ加工の町工場として創業し、公衆電話の部品、光ファイバーのコネクタと、時代に合わせて主力を移してきた会社です。3代目の大坪正人さんが2006年に入社したころは、年間売上の数倍の借金を抱える、厳しい状況だったといいます。大坪さんは、自社の強みである高精度の切削加工を見直し、設計から提案する開発部をつくって航空宇宙の分野へ。2008年の国際展示会をきっかけにJAXAとの取引が始まり、5年間で取引先の数は5倍になりました。生かした資産は「技術・設備」です。

出典:nippon.com

石川樹脂工業(石川県加賀市)|産地のOEMから、自社ブランドの食器へ

400年以上の歴史がある山中漆器の産地で、戦後まもなく漆器の木地づくりから始まった会社です。樹脂の漆器のOEMで伸びてきましたが、下請けだけでは続けていくのが難しくなっていました。2016年に3代目の石川勤さんが家業に戻り、自社ブランドづくりに取り組みます。金沢のクリエイター集団と組んで樹脂の食器「ARAS」を開発し、2020年に発売。ECを中心に売れ行きを伸ばし、レストランやホテルにも広がりました。生かした資産は「技術・設備」と「産地のつながり」です。

出典:Forbes JAPAN

中川政七商店(奈良)|奈良晒の老舗から、工芸の生活雑貨ブランドへ

1716年に奈良晒(麻織物)の商いで創業した老舗です。十三代の中川政七さん(中川淳さん)は、2002年に家業に入り、2008年に社長に就任しました。工芸を生かした生活雑貨を自分たちで企画してつくり、直営店で売る形を整え、2009年からはほかの工芸メーカーを支えるコンサルティングも始めています。生かした資産は「信用(老舗の歴史)」と「技術(工芸)」です。

出典:ニュースイッチ、三菱UFJ銀行

3社に共通しているのは、もともと持っていた技術や産地とのつながりを手放さず、「誰に届けるか」と「どう売るか」を変えたことです。いきなり全部を変えるのではなく、家業の強みを言葉にし直すところから始まっています。

アトツギが新しい事業を始めるときの進め方

継ぐ前から3年目までの流れ

新しい事業は、継いだ直後から始めなくても大丈夫です。むしろ、最初の1年は本業を知り、社内の信頼をつくる時間にあてたほうが、そのあとの挑戦が進めやすくなります。

継ぐ前から3年目までの流れの例

始める前のチェックリスト

  • 先代と「変えないもの」「変えてもいいもの」を話し合ったか

  • 4つの資産(お客さま・技術・信用・地域とのつながり)を書き出したか

  • 本業の数字(売上の内訳、取引先の偏り、利益の出ている商品)を把握しているか

  • 新しい事業に使う時間とお金の上限を決めたか

  • 社内で最初に相談できる人が1人はいるか

  • 家族以外に相談できる外の相手(支援機関、同じ立場のアトツギ仲間など)がいるか

見ておきたい数字の目安

新しい事業の最初の1年は、売上の大きさより「続けられるか」を見るのが現実的です。目安として、次のような数字を3ヶ月ごとに振り返ってみてください。

  • 新しい事業にかけた時間(週に何時間か。本業を圧迫していないか)

  • 試しに使ってくれた人・買ってくれた人の数と、その感想

  • 2回目を頼んでくれた人の割合(リピートは、続けられるかどうかのいちばんの手がかりです)

  • 本業の取引先や社員からの反応(応援してくれる人が増えているか)

よくあるつまずきと対策

先代とぶつかる:新しいことを始めると、先代が「今のやり方を否定された」と感じることがあります。対策は、変える理由を「先代のやり方が古いから」ではなく「この技術をもっと多くの人に届けたいから」と、資産を生かす言葉で伝えることです。

社員がついてこない:社員にとって新しい事業は、仕事が増えることでもあります。最初は手を挙げてくれた1人と小さく始め、うまくいった話を社内で共有すると、少しずつ巻きこみやすくなります。

本業がおろそかになる:新しい事業に夢中になるほど、本業の数字が見えなくなりがちです。かける時間とお金の上限を先に決め、3ヶ月ごとに本業の数字と並べて見直すと、バランスを保ちやすくなります。

家業の「らしさ」は、外に伝えることで強くなる

PlayBlueは、地域でローカルメディアを運営したり、着なくなった服を染め直してよみがえらせるアップサイクルの事業に取り組んだりしてきました。そのなかで感じてきたのは、長く続いてきたものほど、作り手自身がその価値を言葉にできていないことが多い、ということです。

何十年も続く技術や、地域の人との関係は、外から見るととても魅力的です。それを「うちの当たり前」のままにせず、新しい事業や発信を通して外に伝えていくと、お客さまだけでなく、社員や先代、地域の人にとっても、家業の見え方が変わっていきます。アトツギの挑戦は、新しい売上をつくることと同時に、家業の価値をもう一度言葉にし直すことでもあるのだと思います。

よくある質問

Q. アトツギと後継者は、何が違いますか?

A. 指している人は同じで、中小企業や家業の後継者・後継者候補のことです。ただ「アトツギ」と書くときは、家業を受け継ぐだけでなく、新しい事業や売り方に挑戦する人、という前向きな意味合いがこめられることが多いです。

Q. アトツギ甲子園には、どんな人が出ていますか?

A. 中小企業庁が開いているピッチイベントで、中小企業・小規模事業者の後継者や後継予定者が、家業の経営資源を生かした新規事業のアイデアを発表します。全国6つのブロックの地方予選を勝ち抜いた人が決勝大会に進みます。応募の条件や時期は年度ごとに変わるため、最新の募集要項を確認してください。

Q. 継ぐかどうか迷っているときは、何から考えればいいですか?

A. まずは、家業の4つの資産(お客さま・技術・信用・地域とのつながり)を書き出し、「自分ならこれを何に生かしたいか」を考えてみるのがおすすめです。家族だけで話すと結論を急ぎがちなので、事業承継・引継ぎ支援センターのような外の相談先や、同じ立場のアトツギの話を聞くのも助けになります。

まとめ

アトツギとは、家業を受け継ぎながら、新しい事業や売り方で会社を次の形にしていく後継ぎのことです。後継ぎがいない会社が今も約半数あるなかで、家業の資産を生かして挑戦するアトツギは、地域にとっても大切な担い手になっています。お客さま・技術・信用・地域とのつながりという4つの資産を書き出し、本業を止めずに小さく試すところから始めてみてください。

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